能作のものづくり

1-1 高岡という土地

株式会社 能作が所在する富山県北西部の市、高岡市。
人口約17万人という富山県第2の都市で、県西部(呉西)の中心都市として知られています。

その歴史は、1609年に加賀藩主の前田利長が高岡城に入り、「高岡」の町が開かれたことにより始まりました。 「高岡」の地名は『詩経』の一節「鳳凰鳴矣于彼高岡(鳳凰鳴けり彼の高き岡に)」に由来し、 前田利長が築城と開町に際して名づけた瑞祥地名であると言われています。 この1609年の開町というのが、私たちが「高岡400年の歴史…」と表現するところであり、近世高岡の文化が始まるところです。

歴史を感じさせる金屋町の町並み
歴史を感じさせる金屋町の町並み

開町当時は、人口5,000人にも満たない町の人口も、城の周囲や南の台地に侍屋敷が配置され 徐々に発展していきました。 しかし、その6年後の1615年の一国一城令により、高岡城は廃城。当時、「城の無い城下町は衰退していく」と言われ 城の無くなった高岡の町もそうなるだろうと見られていましたが、前田利常の「高岡の人々の転出を規制し、 商業都市への転換を図る」という政策が功を奏したため、高岡は発展の道を辿り始めます。高岡の「商工業の町」としての歴史の始まりです。

高岡の鋳物の歴史は、開町から2年後の慶長16年、前田利長が 現在の金屋町に7人の鋳物師(いもじ)を招いたことから始まりました。 前田利長の政策をうけ、高岡銅器や高岡漆器なども更に発展していきます。高岡銅器の長い歴史の始まりです。

国宝 瑞龍寺
国宝 瑞龍寺

現在でも、伝統産業としては梵鐘や仏具などの銅器製造(高岡銅器)が全国的に有名で、 高岡漆器とともに経済産業大臣指定伝統的工芸品にも指定されています。
また、近年では先人達の「ものづくりの技」を継承した、デザイン性の高い新しいクラフト商品が次々と発表され、注目を集めています。 豊富な歴史・文化資産やものづくりの伝統に支えられたこの歴史都市・高岡に「能作」は根付いています。

立山連邦を望む雨晴海岸
立山連邦を望む雨晴海岸

1-2 能作について

株式会社 能作は大正5年(1916)、この高岡の地で鋳物の製造を開始しました。 金属材料を熱して液状にした後、型に流し込み、冷やして目的の形状にする製造方法を鋳造(ちゅうぞう)と呼び、 その型から取り出して出来た金属製品を鋳物(いもの)といいます。

創業当時は仏具、茶道具、花器の生地を製造していた能作ですが、ライフスタイルの変化に伴い需要が減少。 そこで、伝統工芸品である高岡銅器の鋳造・加工技術を応用し、2000年頃からベルや風鈴等の真鍮製のインテリア雑貨の開発に着手しました。
もともと鋳物メーカーである能作は販路を持たず、苦戦を強いられましたが、展示会などに積極的に出店することで知名度がアップ。透き通るようなヘアライン仕上げの風鈴は、人気商品となりました。

さらに「金属製の食器が欲しい」というお客様の要望に応え、抗菌性の高い錫(すず)を用いたテーブルウェアを開発。 柔らかい錫の特性を生かした「曲がるKAGOシリーズ」等の能作を代表する商品が生まれています。

加えて近年では、照明器具、オブジェや建築金物、医療器具等の開発製造にも取り組み、分野を越えたものづくりに挑戦しています。
職人から職人へと受け継がれてきた高度な鋳造技術や優れた知恵、伝統、精神。

能作はこれからも、先人の技術を継承しながら、素材を最大限に生かすデザインを探求し続け、高岡の地で人に愛され 地域に誇れるものづくりを目指してまいります。

より能(よ)い鋳物を、より能(よ)く作る

高岡銅器の伝統を受け継ぐ鋳物メーカーである能作。
高岡銅器は、原型師が像の元となる雛型の造型を行い、それを砂でできた鋳型に置き換えます。 そして、その鋳型に溶解した銅を流し込み、型を外して研磨・着色・彫金(彫刻・象眼)といった加工を施した後、仕上げを行ってやっと製品が完成します。 それぞれの工程は分業化され、どれも卓越した技術が必要です。
能作は、こういった昔ながら鋳造技術を受け継ぎつつ、新しい素材・技術研究や商品開発に取り組んでいます。

2-1 能作の鋳造技術

能作では、生型鋳造法を中心に自硬性鋳造法、ロストワックス鋳造法、独自のシリコーン鋳造法などの技術や素材を使い分け、 多品種少量生産体制を確立しています。
歴史の中で培った高度な技術を基盤に、NC加工や3Dプリントといった加工方法も積極的に導入。職人の繊細な手仕事と機械のバランスをはかることで、 スピーディ且つ柔軟な製作体制を実現しました。
企画から製造までの一貫生産体制により、品質の高い製品を安定供給することに努めています。

熟練の技が必要な「生型鋳造法」

鋳型用の砂に少量の水分と粘土を混ぜ、押し固めて成型する方法です。 その他の鋳造法と違い、鋳造前に鋳型を焼成・薬品処理をしないため「生型鋳造法」と呼ばれています。 能作では、昔から高岡銅器の製造で用いられているこの技法で、多くの商品を製作しています。 鋳物砂は押し固めているだけのため、もろく崩れやすく、熟練した職人技が必要となります。 また、砂の粒子の多きさや気温差等の条件により、ひとつひとつ表情の違う鋳物が生まれるのも「生型鋳造法」の特徴です。

■ 生型鋳造工程

1製品と同じ型上の木型を作り、金枠を乗せて砂が逃げないようにする

2木型の周りに砂を敷き詰め、押し固めていく

3木型を抜き取ることにより鋳型ができる

4溶かした金属を鋳型に流し込む

5金属が固まったら型から製品を取り出し、表面についた砂を取り除く

6ひとつひとつロクロで生地を仕上げる

7着色や研磨の工程を経て完成

微細な表現が可能なシリコーン鋳造法

シリコーン(人工高分子化合物)型を作って、その中に金属材料を流し込むことで製品を成型する方法です。 錫などの低融点合金の鋳造に適しています。
能作では、従来の生型鋳造法に加え、より微細な表現を可能にするため、シリコーン型開発にも注力しています。 この技術により、すずらんシリーズやガンダムぐい呑などデザイナーや企業の繊細な要望に応える多くのコラボ商品が生まれました。
また、シリコーン鋳造法は廃砂等が出ないクリーンな製法です。 シリコーン鋳造法による量産体制を確立し、環境にも配慮したものづくりに取り組んでいます。

2-2 能作の素材

錫(すず)[錫100%]

金、銀に次ぐ高価な金属として知られる錫は、酸化しにくく 抗菌作用が強いという特性をもっています。
その歴史は古く、紀元前1500年頃の古代エジプト王朝では錫の道具が用いられていたと推測され、日本でも正倉院に錫製の宝物が収められています。 また、古くから「錫の器に入れた水は腐らない」や「お酒の雑味が抜けて美味しくなる」などと言われ 酒器や茶器などに使われてきました。

能作の錫は、純度100%です。通常は、仕上げ加工をしやすくするために他の金属材料をくわえて硬くしますが、 能作の錫はそれらを一切含みません。純度100%の錫は非常に柔らかく、形状や厚さにもよりますが手で容易に曲げることができます。 曲げる時にピキピキという高い音がしますが、これは錫の分子が擦れ合う音でTin Cry (錫鳴き)と呼ばれています。 金属でありながらも人肌に馴染む錫を、生活の様々なシーンでお楽しみください。

真鍮(しんちゅう)

真鍮とは、銅と亜鉛の合金です。紀元前1000年頃から用いられ、古代ローマ帝国では貨幣として使用されました。 日本でも正倉院に奈良時代、中国から輸入された真鍮製品が納められています。
現在では、いちばん身近なものでは貨幣の5円玉、そのほか小物、インテリア、建築金物、仏具や楽器の材料としても愛されています。

能作の風鈴やそろり、燭台も真鍮製です。おりんや具足で培われた鋳造技術を活かし、ひとつひとつ職人の手によって仕上げられています。 真鍮製品といっても仕上げによるその表情は様々。能作の技と心意気が詰まった味わいのある製品を、お楽しみください。

青銅(せいどう)

青銅とは、銅と錫の合金ですが、一般的にはブロンズとして広く知られています。 歴史的にも非常に古く、紀元前2,000年のメソポタミア文明で使用されていたと考えられており、 日本でも紀元前300年頃には稲や鉄とともに九州に伝わっています。銅鏡や銅鐸など耐蝕性に優れた素材として使用され、 奈良の大仏や長崎の平和祈念像も青銅で鋳造されています。

能作では、その性質を生かし、苔盆栽シリーズや、特注品の建築金物やオブジェなどに青銅を用いています。

2-3 高岡銅器用語集

高岡銅器

富山県高岡市で製造されている銅製品。慶長16年(1609年)に加賀藩主前田利長が7人の鋳物師(いもじ)を招いたことにはじまる伝統的工芸品。 ちなみに鋳物師(いもじ)とは、鋳造を行う工人のことで、古来は朝廷の認可が必要だった。

鋳造(ちゅうぞう)

溶かした金属を流し込み、製品を作ること。

鋳物(いもの)

溶かした金属を型に流し込み、冷えて固まった後、型から取り出して作った製品。

鋳型(いがた)

鋳物を作る際に溶かした金属を流し込むための型。

ヘアライン仕上げ

金属の表面処理加工の一種で、単一方向に髪の毛ほどの細かい線をつける加工法、および、そのような加工方法による仕上げ方のこと。
ヘアライン加工は、旋盤で表面を加工することでつや消しの効果が生まれると共に、金属的な質感を強調する効果が生じる。

クリアーコーティング

色の着いていない樹脂(ラッカーやウレタンなど)用いたコーティング。
艶出しや表面保護、手触りをよくする目的で行う。

具足(ぐそく)

武士の武具や甲冑の意味もあるが、高岡銅器においては主に仏具一式を指す。 具体的には、香炉、花立、灯立(ロウソク立て)の仏具一式を総称した「三具足」や「五具足」など。 仏壇の大きさ、宗派や地域の風習により組み合せや配置が異なる。

経年変化

時が経つにつれ状態が変化すること。能作の素材の多くは酸化によって経年変化が進むが、表面を保護する効果もある。
使い込むことででる味わいを楽しむもよし、こまめに手入れをして愛着を持つのもよし。